
消えた500万円、犯人は社員の中に——「法務係」に扮した探偵の潜入記録
毎朝、各トラックに持たせる現金から、少しずつ消えていく金。半年で、その額はおよそ500万円に膨れ上がっていました。犯人は、100人を超える従業員の中の誰か——。この事件を解決するため、私は探偵の身分を隠し、一人の新入社員として、その会社に潜り込みました。東京を拠点に30年、企業からの依頼にも数多く応えてきた私が手がけた、社内横領を暴いた潜入調査の記録です。
毎朝30万円、半年で消えた500万円
依頼者は、あるリサイクル品の買取・運搬業を営む会社の社長だった。ソファーや家具、白物家電、コピー機といった大型のリサイクル品を扱う、従業員100人余りの、それなりの規模の会社である。
この会社には、独特の仕組みがあった。10台あるトラックに、それぞれ3人の作業員がランダムなシフトで乗り込み、朝8時に出発する。リサイクル品を買い取るための現金として、各トラックに毎朝30万円を持たせる。そして夕方6時頃、戻ってきた運転手が、事務所に伝票と残ったお金を渡し、タイムカードを押して業務を終える。帰社時間がほぼ同じなので、事務所の前には毎晩、精算を待つ列ができた。
半年ほど前から、その現金が、どうも合わない。少しずつ、足りないのだ。だが会社は、その仕組みを変えないまま様子を見ていた。すると、気づいたときには、およそ500万円もの金が、消えてなくなっていた。
業を煮やした社長は、他の幹部2名を伴い、計3名で弊所を訪れた。犯人を見つけてほしい——それが、依頼の内容だった。
まず、一人の探偵をトラックに乗せた
最初に打った手は、探偵を一人、トラックの運転手として会社に潜入させることだった。配車を担当する係は会社側の協力者だったので、シフトを自由に組める。そこで、この潜入探偵が毎日、違う作業員と組んでトラックに乗れるよう、便宜を図ってもらった。
その探偵の胸ポケットには、ボイスレコーダーが忍ばせてある。30人ほどいる運転手と日替わりで同乗し、怪しい話をしている者の会話を拾い、犯人を絞り込んでいく作戦だ。この時点で、私たちは「これは一人の犯行ではない」と睨んでいた。
潜入した探偵からは、毎日、各作業員の人物像についてのレポートが上がってくる。ずるそうな者、真面目な者、明るい性格、暗い性格——具体的な出来事を交えた詳細な報告と、探偵自身の所感を聞くだけでも、おおよその犯人像が浮かび上がってくる。これも、経験のなせる業である。
そんなある日、ボイスレコーダーが、決定的な会話を捉えた。会社の倉庫にある商品を、勝手に客に転売したり、インターネットで売りさばいたりしている——横領の手口を、丸出しにした会話だった。
社長に連絡し、最初に来所した3名に、夜、再び集まってもらって、その録音を聴かせた。3人は、言葉を失った。とりわけ社長は、うつむいたまま顔を上げられない。無理もない。会話の主の一人は、社長が目をかけていた男だったのだ。そのショックは、相当なものだっただろう。
だが、これだけでは足りない。商品の横流しは掴めても、「毎朝の現金が消えた」という、肝心の証拠にはならないのだ。
探偵、「法務係」として入社する
そこで、私自身が動くことにした。むろん、勝手に忍び込むわけではない。社長の了解と協力のもと、会社に「法務係」の新入社員として迎え入れてもらい、名刺まで作ってもらう。スーツを着て、朝8時に出勤する日々の始まりだ。潜入調査の、真骨頂である。
まず取り掛かったのは、パートを含む社員全員からの、聞き取りだった。面談用の個室をもらい、一人ずつ来てもらう。名刺を渡し、笑顔で自己紹介をしてから、私はこう切り出した。「私のことは、組合長のように思ってください」。そして15分ほど、会社への不満や、変えてほしいことを聞いていく。「もちろん、誰が言ったかは匿名にします。私にできることがあれば、会社に助言しますから」。
この切り口で入ると、社員の警戒心は溶けていく。どんどん、本音を話してくれる。それを、隠し持ったボイスレコーダーで録音しながら、詳細にメモを取っていった。
ひとしきり不平不満を聞き終えたところで、さりげなく核心に触れる。「あ、そういえば。最近、会社のお金がなくなってるって話、知ってます? どんな小さなことでも、噂話でもいいので、聞かせてください」。こうして、本題を探っていった。
60人ほどの聞き取りが終わる頃には、犯人はほぼ絞れていた。社員たちの証言が指し示したのは、あのボイスレコーダーに残っていた、2人の男だった(もちろん、本当に何も知らない社員も大勢いた)。
挨拶を無視する、2人の男
実を言うと、聞き取りをするより前から、私の中で犯人はおおよそ分かっていた。理由は、単純だ。朝や帰社後、すれ違う運転手たちに、私は丁寧に「おはようございます」「お疲れ様です」と挨拶をする。ところが、犯人と思しき2名だけは、それを極端に無視するのだ。それどころか、こちらを睨みつけてくる始末である。
後ろ暗いところがあるから、新入りの「法務係」が気になって仕方がない。馬鹿な泥棒ほど、態度に出る。分かりやすいものだった(内心では、その都度いらだってはいたが、一切顔には出さず、「お前ら、そのうち覚えていろ」と、心の中だけはささくれ立っていたのを、白状しておきます)。
いよいよ、その2人との面談である。まずは、若いほう。25歳の、仮に青山と呼ぶ男だ。青山には、他の社員のような世間話はせず、いきなり事件の話から切り出した(こちらは、あくまで笑顔のままである)。すると青山は、まるでテレビドラマに出てくるチンピラの取り調べのように、ふてぶてしい態度をとった。足を組み、斜め上を見て、「はぁ、知らないよ」「邪魔くせえな」「犯人捜しかよ」「うるせえよ」。横着という言葉では足りない、喧嘩腰。これでは「犯人は自分だ」と言っているようなものである。
続いて、もう一人。30歳くらいの大男を呼ぶと、態度はまったく同じだった。「犯人なんか見つからねえよ」「あんた、誰なんだよ」。取り付く島もない。だが、この2人の反応こそが、私にとっては何よりの手応えだった(この時ばかりは、内心どこかで、この駆け引きを楽しんでいたかもしれません)。
ストロボと、指紋採取器という「ブラフ」
ここで、少し揺さぶりをかけることにした。弊所の探偵に、いかにも刑事に見える年配の者がいる。彼を会社に呼び、あたりが暗くなった時間帯に、一眼レフカメラを持たせた。そして私の指示のもと、運転手の休憩室のあちこちで、社員みんなに見えるように、ストロボを焚いてシャッターを切らせたのだ。
写真の中身は、正直どうでもいい。刑事風の男が、私の指揮のもとで写真を撮っている——その光景を、犯人に見せることが目的だった。というのも、先に潜入していた探偵から、この2人が私の存在を異様に気にして、「あいつ、警察かな?」「元刑事とかじゃないか?」と、いつも噂していると聞いていたからだ。その不安を、さらに煽ってやろう、という作戦である。
そして、2回目の青山との面談。私自身のテンションもかなり上がっていたが、ここは大事な場面だ。冷静さを保って、青山を呼び込んだ。
今度は、事件当日のことを、しつこいくらい、何度も細かく聞いていく。帰社してから、現金と伝票の入ったクリアファイルを持って、まずどこへ行ったのか。その時、そこには誰がいたのか。何分そこにいたのか。トイレには何分入っていたのか——。
追い詰められた青山は、その時に休憩所で一緒だった4名の名前を出し、「机の上にクリアファイルを置いてトイレに行ったから、その中の誰かが犯人だと思う」と、苦し紛れに言い出した。そこで私は、その4名に、わざとこう告げた。「青山が、あなたたち4人の誰かが犯人だと言っているよ」。案の定、4人は怒り、堰を切ったように、さらに詳しい事情を語り始めた。
青山も、自分が疑われていることは分かっていたのだろう。「俺が犯人だと思ってるんだろう! だったら、辞めてやるよ!」。これが、彼の最後の、渾身の捨て台詞だった。
膝から崩れ落ちた、青山
なぜ、私が2人のうち、青山だけに狙いを絞ったのか。それは、青山が、もう一人の大男の言いなりになっているのが、見えてきたからだ。気の弱い青山を落とせば、必ずすべてを自供する。そう踏んだのである。
そして、留めの一手。市販の指紋採取器を持ち込み、「全員の指紋を採っているから」と言って、まずサンプルを4〜5枚作ってみせ、それから青山の指紋を採取した(正直に言えば、指紋を採ったところで、使いようはないのだが)。
その、指紋を採取している最中だった。青山が、急に膝から崩れ落ちた。そして、泣きながら、こう言ったのだ。
「スミマセン、でした警察だけはご勘弁下さい!」
堰は、切れた。青山はすべてを白状し、あの大男とともに、懲戒解雇となった。そして2人は、横領した全額を、弁済し終えたのである。
この調査が教えてくれること
事件が解決したあと、社長からは「これからも会社に残ってほしい」と、ずいぶん懇願されました。ですが、私は探偵です。丁重にお断りして、この案件を終えました。かかった日数は、45日。安くはない時間でしたが、消えた500万円が戻り、会社の膿を出し切れたことを思えば、社長も納得してくださったようです。
この調査で、暴力は一切使っていません。使ったのは、人の心理を読む観察力と、少しばかりの機転だけです。挨拶を無視する態度から犯人を見抜き、聞き取りで外堀を埋め、相手が勝手に抱く警戒心を利用して、自ら崩れるように仕向ける。派手な証拠品ではなく、こうした地道な積み重ねと駆け引きこそが、潜入調査の本当の姿です。
従業員による横領や、社内での不正は、経営者にとって、口にするのもつらい問題です。「疑いたくはないが、どうも金が合わない」「特定の従業員の様子がおかしい」——そんな悩みを一人で抱えている経営者の方は、決して少なくありません。放置すれば、被害は膨らむ一方です。まずは、事実を確かめることから始めてください。東京・足立区を拠点とする弊社では、個人・法人・弁護士からのご依頼を問わず、初回のご相談を無料で承っています。まずは無料相談フォームから、お気軽にご連絡ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 社内の横領を疑っていますが、調査を依頼できますか?
A. はい、依頼できます。従業員による横領や着服、商品の横流しなどの社内不正は、企業様からのご相談として数多く承っています。状況に応じて、潜入調査や聞き取り、行動確認などを組み合わせ、事実の解明をお手伝いします。
Q. 誰が犯人か分からなくても、調査できますか?
A. はい、可能です。今回のように、多数の従業員の中から犯人を絞り込むところから調査を始めるケースも少なくありません。まずは被害の状況や、社内の仕組みを伺ったうえで、最適な調査方法をご提案します。
Q. 調査していることを、社内に知られたくないのですが。
A. ご安心ください。調査は、対象者や周囲に気づかれないよう、細心の注意を払って進めます。必要に応じて、探偵が身分を伏せて社内に入る潜入調査など、状況に合わせた方法をとります。調査の事実が対象者や周囲に伝わらないよう、最大限配慮して進めます。
Q. 横領の証拠は、その後の対応にどう役立ちますか?
A. 確かな証拠があれば、本人への懲戒処分や、被害額の弁済を求める交渉を、有利に進める材料になります。刑事告訴や民事での損害賠償請求を検討する場合にも、弁護士と連携しながら対応できます。
企業・社内不正調査のご相談は、足立区の青木ちなつ探偵調査へ
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なお、具体的な調査方法は、案件ごとの事情や関係する法令、会社側の権限などを踏まえて判断いたします。
※本記事は実際の調査に基づく記録ですが、依頼者および関係者のプライバシー保護のため、氏名・地名・日時・金額・業種など個人を特定しうる情報は伏せ、もしくは変更しています。



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