
「主人は浮気しています」語気の強い来訪者
東京で浮気調査を受けていると、依頼者の第一声で調査の輪郭がおおよそ見えることがある。だがこの日の来訪者は、その勘がうまく働かなかった。
40代の女性。夫の浮気を疑って足立区の当事務所に来られた。開口一番、主人は浮気していると断言される。帰宅が遅い日が続き、朝帰りもある。声が高く、話の途中で何度も語気が強くなった。
正直に書くと、この時点で相談員は違和感を覚えていた。断定の強さに比べて、根拠が具体性を欠いていたからである。それでも遅い帰宅と朝帰りという事実は挙がっていた。指定された日時で調査に入ることとし、受任した。
追えども追えども、夫は現場と自宅を往復するだけだった
調査を開始する。遅い帰宅の理由は、初日で判明した。大規模修繕工事の現場仕事である。工程の詰まった時期は終業が押す。夫は作業着のまま現場を出て、寄り道もせず自宅へ帰った。
朝帰りも確かにあった。ただしそれは夜勤明けの帰宅だった。深夜に現場へ入り、明るくなってから戻る。それだけのことである。
何日追っても同じだった。現場、会社、自宅。この3点を往復するだけの生活である。飲みに寄ることすらない。調査員の報告に、色のついた行動が1つも出てこない日が続いた。
再面談で告げられた「匂いです」
このまま調査時間だけを消化させるわけにはいかない。依頼者に事務所へお越しいただき、もう一度話を伺うことにした。
最近はどういったところがおかしいと感じますか。そう尋ねた。返ってきたのは、予想していたどの答えとも違った。
匂いです、と言われた。
匂い、と聞き返す。ここから先は、依頼者が口にした言葉をそのまま記す。そうです、夜の営みの時にゴムの匂いがするのです。相談員は、そうですかとだけ答えた。
頂いた情報のとおりに調査を進めていますが、今のところ影は見えません。そう伝えると、依頼者は再び声を荒げた。間違いないんですよ、と。
これ以上の問答は不毛だと判断し、その日はお引き取りいただいた。事務所に残った相談員は頭を抱えた。匂い、におい、臭いねぇ。そして、もう1つ引っかかることがあった。浮気を疑いながら、夫婦の営みは続いているのである。
延べ23日、160ページを超える報告書
探偵の仕事において、浮気があったことの証明よりも、浮気が無かったことの証明のほうが断然難しい。
浮気があるなら、決定的な場面を1度押さえれば足りる。だが無かったと示すには、疑われた日時を1つずつ消していくしかない。空白を1つ残せば、そこに疑いが戻ってくる。
だからこそ当社では、初回の面談で客観的な根拠が見当たらないと感じた場合、調査そのものをお受けしないことがある。件数として多くはないが、結果の出ない調査で費用だけを頂くわけにはいかないからである。
この案件は、そこからさらに4日間の調査を続行した。延べ23日。行動の記録と、日時の刻印された写真を積み上げた結果、当該浮気調査の結論は、浮気は無し、であった。
結果を伝えた依頼者は、完全に激高した。私の妄想だとでも言いたいのですか、と。
いえ、これだけご指定の日時に調査を行いましたが、その事実はございませんでした。またその間のご主人の動きについても、どこにも寄らずに現場と会社と自宅を移動していることが、日時の刻印された写真で残っております。そう答えた。もう、いいです。電話はそこで切れた。
後日、相談員が報告書を持って出向いた。印字して分厚くなった160ページを超える報告書である。最初は不機嫌極まりない表情だった依頼者は、一部始終を見終えたとき、黙って下を向いていたという。
1年後、記名の途中で止まった手
それから1年が経った。
今度は男性からの依頼だった。妻の浮気調査である。話を額面どおりに受け取るなら、かなりの頻度で、しかも行き先を偽るような細工まで交えて浮気をしているという。
その具体性には驚きもあったが、同時に浮気の事実に間違いはないという確信も持てた。日時、経路、相手の存在を示す話の細部が、疑いではなく観察の言葉になっていたからである。受任を決めた。
調査契約書と重要事項説明書に署名をいただく。氏名と住所を記入していただいている、その手元を見ていた相談員が、ふと動きを止めた。
記憶に引っかかる名字だった。インパクトがあり、しかも長く続いた調査だったため、頭の隅にこびりついていた名前である。
ひょっとして、建築関係のお仕事をされている方ではありませんか。そう尋ねた。ええ、そうですが、と返ってくる。白い商用のワンボックス車にお乗りでは。
はい、そうですが。
環七から見える駐車場
当時の事務所は環七通り沿いで、駐車場が道路からよく見えた。随分前に奥様からご依頼を受けて、あなたを追っていたんですよ。相談員はそう告げ、念のため依頼者には裏手のコインパーキングまで車を移していただいた。
戻ってきた依頼者の第一声は、こうだった。
僕は絶対に浮気なんてしていませんよ、絶対に。
それはこちらでも把握しております。浮気は無かった、というのがあのときの結論でしたから。そう答えると、依頼者はようやく肩の力を抜いて話し始めた。
うちのは少し異常なんです。先ほどお話ししたことで分かっていただけると思いますが、とにかく無茶苦茶で。なんとしてでもこの浮気の証拠を撮って、離婚したいのです。
承知いたしました、お任せください。そう答えて契約を締結した。
10日で出た答え
調査に入ってからは早かった。約10日で、十分すぎるほどの浮気現場の写真が揃った。行き先を偽る細工も、依頼者の話したとおりだった。調査は終了である。
1年前、23日かけても何も出てこなかった夫。1年後、10日で結論の出た妻。同じ家の中の話である。
探偵の所感
私の経験では、極端に疑いの強い方の中に、自分がするのだから相手もするはずだ、という前提で物事を組み立ててしまう方がいます。今回の一件も、突き詰めればそこに行き着くのだろうと考えています。
疑う気持ちそのものを否定するつもりはありません。実際、直感が当たっているご相談は数多くあります。ただ、根拠が匂いや雰囲気といったものだけで、行動の事実が1つも挙がってこないとき、私たちは慎重にならざるを得ません。
浮気調査は、クロを見つけるためだけのものではありません。シロだと確認できることにも、同じだけの意味があります。あの分厚い報告書を最後まで見終えた依頼者が黙って下を向いた、あの時間は無駄ではなかったと思っています。証拠を突きつけられて黙るのは、疑われた側だけとは限りません。
2度目の依頼者である夫側の方は、その後は弁護士へ引き継ぎましたので、今どうされているのかは存じ上げません。ただ、穏やかに暮らしておられることを願うばかりです。
よくあるご質問
Q. 浮気をしていないことの証明は可能ですか。
A. 可能です。ただし浮気があった事実を示す調査より難易度は高くなります。指定された日時の行動を切れ目なく記録し、立ち寄り先が無いことを日時の入った写真で積み上げる必要があるためです。
Q. 思い込みかもしれないと言われたら、依頼はできませんか。
A. お受けできる場合もあります。ただし初回の面談で客観的な根拠が見当たらないと判断したときは、調査をお断りすることがあります。結果の出ない調査に費用をかけていただかないための判断です。
Q. 浮気が無かった場合、報告書はどうなりますか。
A. 浮気が無かった場合も報告書は作成いたします。対象者の行動の記録と日時の入った写真をまとめ、確認できた事実をそのままお渡しします。
Q. 夫の浮気調査と妻の浮気調査で、進め方に違いはありますか。
A. 基本的な手法は同じです。ただし行動範囲や生活の時間帯に違いが出やすいため、張り込みの位置と時間の配分は個別に組み立てます。
Q. 事務所へ出入りするところを見られないか心配です。
A. 事務所以外の場所での面談も可能です。お車でお越しになる場合の駐車位置についても、事前にご相談いただければ配慮いたします。
ご相談について
当社は東京都足立区に事務所を構え、30年にわたり浮気調査をはじめとする各種調査をお受けしてまいりました。ご相談は無料です。調査が必要ないと判断した場合は、その旨を正直にお伝えします。
※本記事は実際にお受けした調査をもとに構成しています。氏名、地域、時期、職業、車種、家族構成などの細部は、個人が特定されないよう変更しております。また会話は趣旨を損なわない範囲で再構成しています。記載の調査日数や報告書の分量は当該案件のものであり、すべての調査で同様の結果をお約束するものではありません。



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