
教えて探偵さん。浮気相手が複数の場合 最終章
今までの粗筋
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夫が複数の女性と不倫をしているという依頼者さんが、弊所 【青木ちなつ探偵事務所】に浮気調査を依頼に来られた。その契約の概ね3ケ月後、ようやく絶対的確信を持った依頼者さんが日時を指定。
早朝からベテラン探偵2名と、新人研修の探偵、茂を加えた3名で調査に向かった、調査対象者である依頼者のご主人の動向は、依頼者さんがご主人のメールを見れる状況だったので、然程 難易度の高い調査ではなかった。
ただ、新人研修の茂がトンチンカンなことをやらかしてくれるので、簡単な調査が時折危うい場面を迎えることがしばしば。
なんとか、一回目の調査はベテラン探偵の機転で乗り切り、完結したが。最後の最後でベテラン探偵達の茂に対するストレスが爆発した。
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翌週の土曜日。依頼者さんからの要望で「この日も必ず女と会いますが、先週の方とは違うようです」
と言った連絡があり、3名の探偵達が現場に向かった。2名のベテラン探偵は同じだったが運転手だけは茂ではなかった。
一度、同じ人物を尾行調査しているので対象の癖や動きは分かっている分、初見の調査よりは随分やりやすく、何の問題もなしに先週同様キッチリと『不貞行為』の現場を押さえて、調査を完結した。
そして、取締役の青木が依頼者さんと一緒に提携している弁護士のところへ同行し、浮気相手の女性2名に慰謝料請求の内容証明を送付してもらい、最初の女性から140万円。2人目の女性から150万円の慰謝料が支払われ示談となった。
ご主人はと言うと「携帯にGPSを付けてもいいから、なんとかやり直してはもらえないか」と懇願され、依頼者さんは、
「あなたのこれからを見てから決めさせてもらう」
そう云い放って、ご主人はせっせと、食事後の皿洗いをしているんだそうです。
「雨降って地固まる」の言葉通り、今は少々ギクシャクしている様ですが、無事、依頼者さんのご要望通りの結末を迎え、我々の使命は終わった。
さて、時間をさかのぼって、やらかし新人探偵『茂』がどうしているかを、書かない訳にいきませんのでもう少しお付き合い下さい。
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女性の自宅を特定して仕事を終えたベテラン探偵2人は、茂が来ていないことを知り、五反田駅から電車で直帰した。
翌日、会社に行き取締役に昨日の顛末、つまり茂のことを相談した。
取締役 「昨日はお疲れさま 問題は無かった?」
探偵 「まぁ・・。調査はなんとか」
取締役 「で、新人君はどうよ」
と、半笑い気味に聞いてきた。
探偵も半笑い気味に、
探偵 「彼の面接は誰がしたんですか?」
取締役 「オレ・・」と、また笑顔でいう。
探偵 「そうですか・・彼の経歴はどんなものなんですか?」
取締役 「国立大学卒業で教員免許を持っていて、ITには相当詳しいらしいよ。まだ大学を出たばかりの23歳」
探偵 「ヘぇ・・。国立大学卒業の教員免許ですか。で、なんで探偵に?」
取締役 「ちゃんと話聞いてなかったから忘れた。教員免許は国語と英語。それと普通免許と2輪も持ってるよ確か。なにかあった?」と、また笑いながら聞く。
探偵 「国語ね・・・。社会に出たことが無いことを差し引いたとしても、もう二度とウチの班には入れないで下さいね」
と、今度は真剣な顔をして探偵は言った。すると、取締役は笑いを押し殺すように
取締役 「やっぱりあかんか・・。」と、いつもの関西弁で笑いながらいう。
探偵 「青木さん笑ってるじゃないですか!知ってたんでしょう?他の班からもそれなりの報告は入ってるでしょ?」
取締役 「うん、みんな自分と同じことを言ってる」
探偵 「だったら先に言って下さいよ、あんな簡単な調査で危うい場面もあったんですよ」
と、少し怒り気味にいう探偵。
取締役 「いや~自分やったらなんとか使いこなせるかと思って」 笑いながらいう。
探偵 「とにかく、社会性とか常識でいうなら小学生レベルですよ。」
「ハッキリ言って、彼にこの仕事はムリですよ。研修生でしょ?なんでやめさせ無いんですか?」
取締役 「約束で、研修1ヶ月になってるからさ・・。車の運転くらいは出来るかなぁって思ってサ」
探偵 「車の運転は出来ても、動かさなきゃ意味ないですよ。」
「昨日、自分ら五反田から電車で帰って来たんですよ」
探偵の言葉も少々熱を帯びてきた。
取締役 「ヤッパリ、みんな言うこと一緒やけど・・。教えても治らない?」
探偵 「治るならいいますよ。青木さん一度、彼を連れて調査に行ってみて下さい。青木さんなら手出ますよ」
取締役 「分かりました」
そんな報告を受けて、取締役は事務員に「茂にすぐ来るように言って」と告げた。1時間ほどして茂が足立事務所に顔を出し、大きな声で「おはようござま~す!」と取締役や事務員。報告をした探偵がいる部屋に笑顔で入って来た。
取締役は茂に向かって
「寝泊くん(ネドマリ)【茂の苗字】ちょっとこっちに来て」と、だけ告げ応接室へと先を歩いた。その後に茂が続いた。
対面の椅子に2人は腰を降ろし、取締役が口を開いた。
取締役 「キミさぁ。2週間目になるけど、今なんでオレが呼んだか分かるよね?」
茂 「はぁ・・。どうしたんですか?」
取締役 「え・・。分からんの?だったら言うけど」
「キミこの仕事向いて無いんじゃない?」
茂 「なんでですか!結構向いてると思いますよ!」
少しキレ気味にいう。
取締役「へぇ・・。みんなから苦情が出てるんやけども」
茂 「苦情ってなんすか?」
取締役「いや~・・。一緒に調査に出るのは嫌やって。これって言うものは無いんやけれど・・。皆が同じこと言うにはそれなりのことがあるんでしょ。自分で分からない?」
茂 「もうチョット要領が分かって来たら自分はあの人達より絶って~出来る人間ですよ!」
取締役「もうチョットって・・。どれくらいのこと言ってるの?」
すると茂は何か吹っ切れた様に。
「自分ダメっすか!!ダメっすか!」
と、茂は完全に開き直った。
取締役「難しいね・・」
茂 「それじゃあ今日なんで呼んだっすか!ダメなら電話で十分じゃないっすか!!ワザワザ呼び出してなんなんっすか!この無駄な時間!」
と、取締役の青木に食ってかかって来た。
取締役「あのな・・。こんな話電話で済むことじゃないやん」
茂 「電話で十分っすよ!30分もかけて来る意味無いじゃんかよ!もういいっすよ!!」
茂はそう言いながら、鞄を持って出て行こうとした。
取締役が「チョット待てよ」といい。茂の前に立ちはだかった。茂は強引に取締役の横を抜けようと当たった肩を押しながら応接室のドアを開けようとした。
茂が「どけよ!」と言った瞬間、取締役の青木が茂の左腕を取ってそのまま椅子に押し倒した。茂は目を丸くして、取締役の青木を見つめる・・。
「そこじゃ!その態度がお前の本性じゃ!」
そう一喝すると、茂は涙をボロボロ流しはじめた。そして
「分かってますよ・・。自分が出来ないことは・・自分が一番分かってるんです・・。」そう静かに茂がいう。
そして茂が会社から預かっていた。カメラやPASMO。そして僅かな経費と領収書の類を机の上に置いて、去って行った。
取締役の青木は、少し可哀想な気持ちに囚われていた。
そして、皆がいる事務所へ戻り茂の置いて行った領収書を事務員に渡した。30分程して事務員が、
「茂くん3食会社の経費で食べてましたよ」すると、横にいたベテラン探偵が、
「確たる証拠は無いですけど。車のドアのポケットに入れてある駐車場代なんかに使う500円玉も、結構あいつパクってましたよ」
その時、取締役の青木は、少しでも可哀想に思った自分を可哀想に思ったと同時に「2~3発殴っておけば良かった・・」
完
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